足元から鳥が立つ
あしもとからとりがたつ
タチの悪い好戦的な姿が似ていると思った事はあれども、俯いている後姿が
「似ている」と思ったのは初めてだった。
正直係わり合いになりたいとは思わなかったのに。
「おい、こんなところで何してる」
「うるせぇよマヨラーはすっこんでろ」
口の悪さは相変わらずだ。
「…マヨラーは今ここで関係ないだろが。子供は家に帰る時間だ」
「イヤダ」
即答に溜息が出る。
明らかに強がりのセリフ。
素直になれないところまでそっくりか。
万事屋の連中の誰かと喧嘩でもして飛び出してきたが、帰るに帰れないんだろう。
「…ここらはこの時間になると治安が悪い。子供とはいえお前も一応女だろ。送る」
どうせ言っても聞きはしないと思って強引に腕を引こうとして。
バレないように心の中で更に深い溜息をつく。
そうか、アレと同じなら多分ソレはダメだ。
「おい」
ただ、静かに手を差し出す。
驚いてその瞳が大きく見開かれる。
「何アルカ、…」
後は何も言わず手を差し伸べ続ける。
振り払って自力で帰ってくれるのが1番ラクなんだが…既に何回目かの溜息。
強情な子供に差し伸べられ続ける手。
その昔を思い出してただひたすら待つ。
大きな蒼い瞳が揺れている。
アレと違ってこいつは差し出される手になんて慣れてるだろうに。
気に喰わないが、仲間は大事にする奴らだ。
既に陽は落ちて辺りは暗い。
きっと奴等も探し回っている頃だろう。
このじゃじゃ馬の強さなど、きっと関係ない。
…頭の悪い所もそっくりなんじゃないのか、とかうっすら考えてたらようやく
恐る恐る手が伸びた。
しかし止った。
本当に面倒だ。
俺は仲間じゃないし、まあこんなのでも女の子だしなと半ば諦めつつ、くるりと
背を向ける。
そのまま立ち去らずに後ろの気配を探って待っているとほんの少し躊躇した後
右手に温かな体温。
柔らかく握り返して歩き出す。
「マヨラーのクセに生意気アル」
「……」
とりあえず憎まれ口でも叩かないとやってられないのも同じかよと再び嘆息。
「道場でいいか?」
振り返らずに言う。正直、万事屋まで行くのは本人も嫌だろうが俺も嫌だ。
俺と一緒だと間違いなく素直に逢えないだろうしな。
悲しいことに近藤さんのお陰で道場への最短距離は頭に叩き込んである。
「………トッシーのくせに」
「…それは言うなよ」
思い出したくない過去は無理やり記憶の彼方へ追いやる。更に脳内で追い撃ちに
某ランチャーで粉砕しておいてみる。
既に夜の色に変わりネオンが光りだした街を静かに歩く。
「…なんだ、アイツは幸せモノあるネ…」
ポツリと呟かれた言葉に苦笑する。
「本人は大層不満気だけどな」
夜兎族の生き残り。今までがどうだったかなんてそれと比べようもないが。
「お前だって今は幸せなんだろ」
立ち止まり、俯いたままのお団子頭を促す。
ゆっくりと顔を上げたその先に、息を切らした着物姿の女。
「姉御!」
パッと明らかに表情が生き返る。
向こうも気付いたようだ。
「神楽ちゃん!」
こちらの様子に一瞬ギョっとしたようだか、それをすぐに隠して走り寄ってくる。
流石に素直ではない子供の扱いは慣れているようだ。
小娘は既に走り出している。
2人が合流したのを見届けてようやく胸ポケットから煙草を取り出す。
背を向けて一服。
「やれやれだぜ、まったく…」
「オイ、トッシー!」
「だからその名前で呼ぶなっつの!」
ウガッと振り返ったら電柱の明かりに照らされた予想外の笑顔。
「ありがとな!」
照れくさいのかそれだけ言うとサッと踵を返して着物女と歩き出した。
2人手を繋いで、並んで。
そうだな。
あいつらは並んで歩く。
きっと最初から。そしてこれからもずっと。
ああ、本当にいけ好かない奴等だ。
こちらも振り返らずに歩き出す。
見計らったように携帯が鳴り出しとまっていた時間が動き出した。